本研究の目的は、企業組織で利用可能な情報技術(IT)が発展していくに伴って、特定の基幹業務を管理する情報システムのみならず、企業の現場で働く人々の日常的な組織活動においてどのような影響を与えているのかについて、具体的な問題領域に焦点を絞り理論的・経験的に解明することである。平成15年度の研究は、主に筆者の博士論文をはじめとする、これまでの研究成果をとくに理論的な観点から精緻化するための作業に費やした。本研究において理論的分析枠組みとしている「社会構成主義(social constructivism)」は、とくに技術をめぐっては科学・技術社会学の研究領域における「STS(科学・技術・社会論)」や、認知科学における「状況論(situated theory)」として議論がなされてきた。それゆえ、本年の研究では、まず、科学・技術社会学や認知科学における「社会構成主義に関する理論レビューを精緻に行い、本研究の理論的な位置付けを明らかにしてきた。また、これらの理論を用いた経営学研究として、具体的なフィールドワーク分析をおこない、それぞれの専門学会において経営学における技術の社会構成主義の可能性を議論してきた。具体的には、バイオテクノロジー業界のベンチャー企業を素材にして、社会構成主義による分析を行うとともに、その分析に伴う視点としての経営学(経営学の特殊性)について、科学技術社会研究会において議論した。また、同研究領域の全国大会である日本科学技術社会学会では、経営学セッションを編成し、経営学における技術の社会構成主義を報告した。認知学会においては、状況論の観点から調査報告を行った。その成果は学術雑誌にまとめられるとともに、今後、認知科学における専門書の編著として出版される予定である。
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