報告者の研究視座である「競争史」、つまり、企業の競争優位は、各個別企業単体の競争優位性によるよりもむしろ、競合企業との市場での競争プロセスのダイナミズムのなかで決まっていくという点に関して、平成15年度は以下の諸点の調査・分析に取り組み、部分的に成果を得た。報告者は主として、報告者はコンピュータ産業を対象としているが、それ以外の産業にも競争プロセスのダイナミズムを体現しているものがあり、それらの具体的事例分析に関して若干の着手をも見た。 1.米国コンピュータ史関連のアーカイブズにて、ある企業が他企業をどう分析・評価しているのかを示す内部資料の収集を行った。とりわけ、IBM反トラスト資料の中に、その種の重要な資料を見つけだすことができた。これらをベースに鋭意、1950年代の米国コンピュータ産業に関する競争史の記述を開始した。 2.競争史の分析枠組みを組み立てるために、能力論、比較経営史によるアプローチのサーベイを進めた。とりわけ、勝者の歴史と敗者の歴史をどちらも研究対象として重要視するというダニエル・ラフ教授との有意義な意見交換を行うことができた。しかし、報告者は勝者と敗者を別個の事例として取り上げることも重要だが、表裏一体の関係(競争史)のなかに別のダイナミズムが存在するのではという意を強くした。これに関しては、下記成果「ニューエコノミー時代の競争戦略」の中で、その概念を試論的ながら展開した。 3.競争プロセスのダイナミズムは、技術革新よりもブランド戦略が重視されるタバコ産業でも興味深い事例が散見された。とりわけ、フィリップ・モリス社とレイノルズ社の競争力逆転の構図に関する事例は興味深く、事例の分析・記述を行い、下記紀要の一部になっている。
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