企業が新事業開発において直面する、創発的な市場プロセスの特性を定式化し、このプロセスのなかでマーケティングの果たす役割と、そのマネジメントの機制とをとらえることに努めた。本年度は、理論研究と事例研究とを平行して進めた。 理論面では、産業の誕生時における、技術と用途の出会いの偶発性を克服し、成長期へ向けて産業が離陸していくための要件とその機制を特定化するために、既存研究の整理、分析を行い、理論的な考察を進めた。 産業が成長期へ向けて離陸していく上で重要なのは、拡張製品の投入とデファクト・スタンダードの成立であり、この2つの要件の成立を契機として、製品の扱いやすさ・使い勝手の向上による初期採用者の取り込み、需給両サイドのリスク低減、多様なニーズに応える製品群の登場、補完産業の整備などが進むことで、自己組織的な市場成長を生み出す、相互補完的な役割期待の形成(現実への没入(インボルブメント))がうながされるとの見通しを得た。この研究成果の概要を、図書(『ゼミナール・マーケティング入門』)にて公刊した。 事例研究(ケーススタディ)としては、新事業開発にかかわる企業事例を収集し、これらの企業がどのようなマーケティングマネジメントを行い、そのことが、どのような機制を通じて、市場の創発ひいては新たな事業の確立へとつながっていったのかを分析した。この研究成果の一端を、図書(『ゼミナール・マーケティング入門』)及び論文(「ナイキを飛躍させた新しいスタイルのプロモーション」、「ファミコンに見るハードとソフトの連携の仕組み」)にて公刊した。
|