1990年代以降、アメリカでは機関投資家が、株主議決権、または株主提案権を行使し、過半数を超える支持率を集めることができるようになっている。実際には一部の公務員年金を中心に株主アクティビスト運動が拡大していったが、その運用資産規模は大きく影響力は無視できないものであった。アメリカのコーポレート・ガバナンスにおいては、機関投資家からのチェックが機能していると考えられてきた。このような動向はアメリカ機関投資家の海外投資の拡大とともに、諸外国へも広がっていった。 わが国においても機関投資家の議決権行使が非常に積極的になってきた。6厚生年金連合会では、「厚生年金基金連合会株主議決権行使基準」を策定し、株主議決権行使に積極的である。さらに、同連合会では、コーポレート・ガバナンス活動の一環として、コーポレート・ガバナンスファンドを創設した。これは、コーポレート・ガバナンスに優れた企業を組み入れ対象としており、組み入れる銘柄の基準を明確にすることによって、国内企業全体のコーポレート・ガバナンスの改善に資することを目的としている。このようにわが国において厚生年金基金連台会はアメリカの公務員年金CalPERSのような活動を行ってきている。 しかし、2001年のエンロン破綻に端を発した一連の企業不祥事は、アメリカのコーポレート・ガバナンス・システムの脆弱性を露呈したといえる。なぜエンロンのような問題の背景にある資本市場の投機化がすすんだのか。エンロンへの資金提供者でもある機関投資家の資産運用側面および、アメリカ資本市場において機関投資家と企業の仲介役を果たしている投資銀行との関係が考察される必要がある。本研究はこのような問題意識に基づいて資本市場の投機化の背景にある投資銀行と年金基金の関係を明らかにするとともに、アメリカ・コーポレート・ガバナンス・システムに内在する構造的な問題について検討した。
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