本研究は、広告取引に関係する組織間関係を対象としている。まずはじめに、いままでの先行研究のフレーワークを浮き彫りにし、形成戦略論や組織論の成果を発展的に継承しつつ理論的な考察を行った。具体的に言えば、産業財マーケティングで使用されていた、短期的な取引を想定するフレーワークから、関係特定的資源を鍵概念とする新たな広告組織における分化一統合のフレームワークを構築した。 そうした理論的研究と同時に実証的な研究を行った。具体的には、広告主・広告会社のインタビューを通して関係特定的資源の重要性を浮き彫りにした。とりわけ、広告取引において、もっとも重要な関係特定的資源は、広告クリエイティブを支えるマスメディアの知識であることがわかった。いわゆるソフトセル志向といわれる日本の広告形式は、こうした知識を集約していると言い換えることができる。そこから導かれる結論は、メディア知識、その背後に存在する消費者のメディアリテラシーを考慮して、広告主の広告代理店の選定、すなわち分化と統合は行わなければいけないというインプリケーションである。それは、近年、広告会社の選定プロセスにおいて、アンバンドリングと名称のもと、統合機能よりは専門機能の特化を訴える最近の広告取引に関する一面的な理解に広がりをあたえる可能性が存在する。 しかし、その一方で、限界も存在する。理論仮説を抽出すべく、インタビュー調査を主とする定性的な調査を中心におこなったために、サーベイ調査による検証作業が行われていない。今後、アンケート調査を行い、検証作業を進めるつもりである。
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