研究概要 |
平成15年度の研究実績の概要は,以下の通りである。 第1に、CS戦略、製造戦略、品質管理、業績評価などの関連領域の文献資料を収集し、網羅的な文献レビューを行うことによって、TQM、業績指標、企業業績の関係に関する既存研究の問題点を明確化し、本研究のフレームワークの構築を行った。既存研究の問題点としては、企業間にみられるTQMの多様性が認識されていない点、業績指標の分類として、財務的業績指標と非財務的業績指標という大括りな分類がなされている点、業績指標の活用の場面が明示されていない点、状況要因が考慮されていない点が指摘される。本研究のフレームワークを構築するにあたっては、既存研究のこれらの問題点を克服するためのいくつかの工夫を行った。大きな工夫としては、(1)企業間にみられる品質改善と財務業績の関係についての戦略・方針を3つのパターンに分類すること、(2)業績指標の分類を細分化すること、(3)業績指標の活用の場面として、方針管理のプロセスと現場での品質問題解決プロセスに区分すること、(4)競争環境、産業、製造戦略などの状況要因をモデルに含めることなどである。研究フレームワークを構築するにあたっては、米国滞在中にコロラド大学においてFrank S.Selto教授からいただいた様々な助言、情報が極めて役に立った。 第2に、SAPジャパン、シスコシステムズ、コーポレイトソフトウェアという3社における顧客満足度を報酬に連動させる取り組みについて事例分析を行い、日本会計研究学会全国大会において報告を行うとともに、「會計」に論文として公表した。この事例分析を通じて、次の2点が明らかになった。まず、企業間で使用されている顧客滞足度の集約度(レベル)の違いがある。コーポレイトソフトウェアにおいては、個人レベルの顧客満足度指標が活用されている一方で、SAP及びシスコにおいては、部門や企業レベルの顧客満足度指標が用いられている。ついでそうした違いを生み出している要因について分析を行ったが、営業担当者間及び他部門との相互依存性の程度及び導入時の戦略的な意図が重要な影響を及ぼしていることが明らかになった。 第3に、日本企業がどのような業績評価や報酬の仕組みを有しているかについて、シマノ、リコー、日東電工を対象として訪問調査を行い、実務の現状や課題について理解を深めることができた。今後も継続的に訪問調査を実施し、そこで明らかになった点を、学会報告や学術論文として積極的に公開していく予定である。
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