研究概要 |
本研究の主たる目的は,わが国の銀行が行う会計手続き選択に係る裁量行動とそれが貸出行動・不良債権処理に及ぼす影響,そしてそれらの株式市場での評価に関して実証研究を行うことである。平成16年度は,銀行の裁量的な不良債権償却に及ぼした影響要因と,裁量的な不良債権償却の株式市場での評価の分析に力点を置いた。 具体的には,裁量的会計行動の影響が大きい特定の会計発生項目とくに間接償却の個別貸倒引当金繰入と一般貸倒引当金繰入や直接償却の貸出金償却などの不良債権償却に焦点を当て,裁量的構成部分と非裁量的構成部分という2つの構成部分に分解した後,株価との関連性いわゆる価値関連性を検証した。 分析結果は,銀行の積極的な不良債権償却が株式市場によってポジティブに評価されるというシグナリング仮説を裏付ける場合もあれば,負の評価を示す場合もあった。年度,分解モデル,不良債権償却の方法により株式市場の評価は一様ではなかった。株式市場は不良債権償却の経営者の積極的シグナルという性質よりも,自己資本比率規制への抵触の恐れという点から不良債権償却による自己資本比率の低下に対して,より強くネガティブな評価を下した可能性がある。 関連する研究報告としては次の3つが含まれる。分解モデルでの説明変数の特性と経年変化および裁量部分と非裁量部分に関する特性と経年変化について,サマーセミナーin九州にて「不良債権償却という特定の会計発生項目を通じた裁量的会計行動」として,また価値関連性に関しては,実証会計ワークショップにて「不良債権償却を通じた裁量的会計行動と価値関連性」として,また日本会計研究学会全国大会にて「不良債権処理に係る裁量的会計行動と株価形成」として研究報告を行った。なおこれらの成果をもとに近日中に論文を公刊する予定である。
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