研究概要 |
本研究では、これまでの調査結果から導かれる「原価企画の成功要因に関する仮説検証」と「組織間コストマネジメントの逆機能の実証」という2つの研究目的を掲げ,本年度は,仮説強化を図るための追加的文献調査と企業への訪問調査を予定していた。 予定通りに調査が進行した結果,原価企画能力の実証研究に向けて,次の2つの点に配慮する必要性があることがわかった。 第1に、通常,導入された管理システムは,経時的に変更が加えられ,それを利用する組織成員の反応も変化するという点である。つまり,管理システムが組織や組織成員に根づき,もしくは拒否され,実際の行動に影響を与え,組織成果に影響を及ぼすまでにはタイムラグがあるため,一時点での原価企画システムと成果との関係を観察するだけでは十分ではない。 第2に,ケース研究から得られる知見の一般化に向けて,チェンジ・プロセスを観察するための理論的枠組みをもつことである。 この2つの問題を克服するために,Burns and Scapens[2000]の提唱した管理会計チェンジ研究のための制度論的パースペクティブに依拠することにした。彼らは,管理会計システム・実務のチェンジを3つの鍵概念である「制度」,「ルール」,「ルーティン」を用いて制度化プロセスと捉え,管理会計システム・実務のチェンジとアクションとの関係解明の重要性を説いた。 そこで,原価企画に関わる社内制度,ルール,ルーティンの変更,それに伴う組織成員のアクションの変化,その結果として開発成果への影響を観察するために,ある電源装置メーカーにおける原価企画導入プロジェクトを対象に,導入検討時点から継続的に調査をしてきた(調査は現在も進行中)。調査データは,ヒアリングと社内資料による定性的データおよび導入プロセスのステージごとに実施した関係部署(開発,生産,営業部門)への質問票調査による定量的データを収集している。
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