国際会計基準およびアメリカで一般に認められた会計基準の双方が専ら投資家保護を目的としているのに対し、ドイツ商法会計法は、多元的な目的すなわち欧州会計指令にもとづく投資家保護と同時に会社法上の要請にもとづく債権者保護の双方を目的の射程に納めている。ドイツ商法典第342条第2項は、コンツェルン会計原則の適用について、私的な会計基準設定団体が正規の簿記の原則を考慮すると想定しているが、正規の簿記の原則の解釈をめぐっては様々な学説が対立しでおり、いまだその法的効力について見解の一致をみていない。しかし、今後、ドイツ連邦司法省が商法会計の枠組みを設定しその枠組みの範囲内で私的な会計基準設定団体であるドイツ会計基準設定審議会に権限が委譲されることによって、同審議会が逐一規制を受けずに会計法規の空白部分について正規の簿記の原則の解釈を行うようになることが期待されている。 会計監査人の独立性については、アメリカ連邦証券取引法および国際会計士連盟が詳細な規定を置いているのに対して、ドイツ商法典は一般条項による抽象的な規定を置いていることから、将来の解釈の余地が残されている。例えば、アメリカ連邦証券取引法および国際会計士連盟は、会計監査人の全報酬に占める非監査業務についての報酬の割合を厳しく制限していたが、2002年の企業改革法は、禁止事項に該当せず監査委員会の事前の承認が不要な事項のうち会計監査人の全報酬中の5%を超えない部分について、非監査業務を行ってよいと制限を緩和している。さらに、アメリカおよび国際会計士連盟の規則は、過誤によって会計監査人の独立性が侵害された場合において、その侵害が除去されかつ監査の質を保障する内部統制システムの構築が行われたときは、例外的に独立性に影響がなかったものと定め、会計監査人の責任をより限定している。
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