他国とは異なり、わが国ではサービス業を中心に数多くの企業が株主優待制度を採用している。この株主優待制度が資本市場に与える様々な影響について本研究は調査・検証するものであるが、本年度においては優待実施企業に対するアンケート調査を行うことを最も重要な研究課題とした。 可能な限り最新のデータを入手するために、わが国企業の年次決算がピークを迎える2004年3月に先立つ時期にアンケート調査を実施した。アンケートを作成する前に、企業のIR活動と株主優待制度に関して数多くの仮説を定立した。その仮説に基いて注意深くアンケートを作成した後、2003年11月末時点で株主優待を実施している上場企業821社すべてに対してアンケートを送付した。アンケートについては予想を上回る約50%の企業から回収することができたため、本研究のパイロットテストとしての役割を果たすだけではなく、回収企業の属性に応じた仮説検証型の分析を行うことが可能となった。 本研究は平成15年度および16年度と2年間に跨る研究のため、平成15年度末時点では学術論文という形で未だ公表されていない。目下のところ、アンケート調査の結果を受けて、主として以下のテーマで研究を進めている。 (1)株主優待制度の会計処理と価値関連性:株主優待制度についてタイプ別に会計処理を示すとともに、近年注目されている「残余利益モデル」を用いてその価値関連性を議論する。 (2)配当と株主優待制度に対する経営者の選好について:経営者は配当と株主優待のいずれを選好するのかについて、企業の属性に注目しながら経済理論を用いて考察する。 (3)株主優待制度が資本市場に及ぼす影響について:株主優待制度の採用によって、資本市場にいかなる影響を及ぼしているのかについて、アンケート調査の結果、財務データ、証券市場データなどを用いて実証研究を行う。 なお、株主優待制度を実施していない企業についても、業種を絞って追加的にアンケート調査を行うことにしており、現在その準備作業にも着手している。
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