これまでの研究成果をもとに、当事者とその家族に与えるインパクトの大きい生体肝移植、単一遺伝子疾患への遺伝子診断、不妊治療の領域において、それらが一般的な医療として浸透する過程について、1)医療側のエビデンス(実績)と語り、2)制度・政策面の後押し(費用負担の軽減など)、3)対象となる当事者の語りをもとに、主として1980年代以降の医療化の過程を文献調査によって整理した。同時に、提示されても「選択しない/辞退する」という形で脱医療化を目指す当事者の生き方の確立過程にっいても検討した。 生体肝移植については、2004年に生体肝移植医療の保険適用が拡大され、先端的な医療から一般的な医療へと位置づけも変化した。一方、ドナーが死亡した2003年以降、当事者による出版が相次ぎ、当事者からみた生体肝移植について負の側面が指摘されるようになっていることが確認された。同時に肝移植を受けなかった人々の状況についても検討した。 また、単一遺伝子疾患への遺伝子診断については、不安を解消し、覚悟を醸成する検査技術としての導入意図と遺伝カウンセリングの充実が強調されていたが、近年は遺伝カウンセリングへの距離と同時に、検査技術の存在そのものが不安を増幅するという危惧から脱医療化をはかる語りもみられる。本年度は、9月に国際ハンチントン病会議(World Congress on Huntington's Disease)に出席し、当事者が遺伝子診断を利用せずに、症状の兆候や進行の不安と向き合う生き方について報告した。 最後に不妊治療については、少子化対策の一環として高度な生殖補助医療技術も含めた不妊治療に対する財政的な支援が実施された影響から、当事者にとって不妊治療を辞退する合理的な理由であった「財政的な困難」が選択肢から奪われた点、また「不妊相談事業」が「不妊治療相談事業」化している点などから、急速に医療化が促進されていると考えられる。
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