中国農村では、社会移動や社会的選抜、生活の質などで格差が存在する。個人や家族の適応戦略から生ずる格差だけでなく、村落間の格差も著しい。本研究では、離農した「農業戸籍者」が大多数を占める村落事例を調査し、数億人の余剰労働力人口を抱える中国農村の実態を浮き彫りにすると同時に、社会の移動性を高めつつ生活の質を深化させる「持続可能な発展」のあり方を、社会の基礎的な部分(村落・家族・親族・人間関係など)から検討した。 研究成果として、以下のようなものがある。(1)二者関係が基盤の「后台人」(顔役)社会であり、(2)后台人による社会規範の適用方法や人的・社会的資本が村民生活の内容を左右する村落の「個人的性格」が強く、(3)「人間関係優先主義」を人びとの紐帯の基礎としつつ、組織原理は「<包>的構造」(請負構造)に見出され、(4)父系と母系の原生的紐帯は后台人を結節点に<包>的に展開する。また、(5)父系親族集団の構造や機能などの分析に偏重してきた従来の漢人家族研究を批判的に検討し、(6)系譜観念レベルでの漢人<家族>と、経験的事実から構築された漢人《家族》モデルのズレに着眼して、中国農村社会を動態的に理解する理論枠組みを提起した。 「三農問題」(農村・農業・農民)への取組みのなかで、食糧自給がほぼ実現した現在、農業の構造調整が排出した農業戸籍労働力への対処が中国政府にとって大きな問題となっている。今後は、最近の第11次5ヵ年計画で示されたように、「農村戸籍」の廃止、農村における義務教育の無料化や社会保障の整備など、新しい国家政策が、中国社会の今後にいかなる影響をもたらすのか、村落や家族・親族のケース・スタディを通じてさらに検討してゆくことにしたい。
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