本年度は、韓国での調査については前年度からの文献研究の知見を踏まえ、まず継続調査地である杏源里にて解放後の互助組織および互助機能に関する変化について調査した。今回は1960年代についての話題が主となる結果となった。互助に関わる村人の対応は歴史的事件のみならず韓国社会の政治的経済的変化とともにあり、微細な生活の変化のなかから生まれる認識を丹念に聞き取るためには来年度も継続した調査が必要である。渡日に関する互助については、ニュー・カマーとしての渡日に関わるネットワークが在日親睦会以外に形成されているという知見から、関連する渡日先の1つである三重県熊野市での動向を調査した。また、済州島での新たな調査地として南東の山間の村・加時里においての渡日史の概要および在日親睦会と母村との関係を調査した。解放後のみかん栽培の導入により経済的安定を望めるケースが見られ、杏源里と異なる渡日史が見出せる。現在は調査開始段階であり、今後の持続的調査が必要である。 日本での調査では、1956年に結成された朝天里出身者による親睦会の方とコンタクトをとることができた。東日本と西日本に分かれ組織されており会報も発行している。現状について資料収集するとともに、この親睦会について今後もインタビューを継続していくよう調査への協力を承諾していただくことができた。さらに、この親睦会には植民地期に朝天里で生まれた日本人もメンバーとなっており、済州島生まれの日本人の互助関係についても関連項目として加えていく必要性が見られた。継続調査対象である在日本杏源里親睦会についても今年度の動向を資料収集し、1世による寄付に重きを置いた母村との関わりとは異なる形態への模索について知り得た。 今年度は、中間分析を兼ねて済州島で開催された国際学術シンポジウムや国内での研究会で報告し、論文としてもまとめた。また、済州大学校の研究者たちとも意見交換し、今後の研究についての助言をえることができた。
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