日本の農山村の土地所有や資源管理について、景観とのかかわりということから考察した。 新しい景観法は、「農山漁村」という景観にまで保全の対象領域が拡張されたことも、その大きな特徴のひとつである。これは、農山漁村の空間を、景観という誰もが利用の主体となり得る資源、すなわち公共の財産として意味づけることによって、制度的な発言力の主体を広げる試みだともいえる。しかしその一方で、そこで暮らす人間たちをも視野にいれるなら、農山村の空間は古くから生産の場としても生活の場としても利用されてきたところであり、それにまつわる慣習的な権利関係が錯綜しているところでもある。したがって、現在や過去のある一定の状態を作為的に保全しようとするなら、資源をめぐるポリティクスが発生することにもなる。ここに、農山漁村の景観保全に固有の問題領域が存在する。 本研究では、阿蘇の草原保全運動を事例としてとりあげ、資源をめぐるポリティクスという視点から、生産領域の景観保全をめぐって何が生じているか、それが地元の人びとにとってどのような経験であるかについて考察した。そして、入会権を固定化し、さらに登記を変えようとしなければならなくなっていること、そこに住んでいるものが、稀少になった資源から得られる価値を自分のものとして資源化することができない現状、草原保全という動きが、地元にとっては、権力をもった「要求」になる危険性があることなどが明らかになった。
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