研究代表者は平成12年度から13年度にかけて、「リスク社会における情報空間と社会的亀裂に関する比較都市研究」というタイトルで科学研究費を受けているが(課題番号13710119)、平成15年度から17年度にわたる本課題はその継続という性格を持っている。主な対象となっている新潟県柏崎市・巻町の比較であり、この二都市が原子力争点をめぐって対照的な選択を行ったことは、社会的リスクが不平等に配分され、「受益圏・受苦圏」の社会的亀裂が集約化・先鋭化しているような、「リスク社会」(U.Beck)の今日的位相を明らかにしている。そこから進んで、リスクの発生源となっている大都市において「持続可能な都市」づくりがどのように可能なのかという問題意識に基づき、「環境自治体」を標榜する鎌倉市の政策執行過程の事例研究も行ってきた。鎌倉市に関する事例研究は、平成15年度でほぼ終了し、成果は2004年9月に『都市社会学会年報』に掲載される(掲載決定済)。平成15年度からは北海道札幌市を調査対象地に加えた。これは、情報空間の格差に関する本格的な考察を開始するためであり、現在のところメディアリテラシーをキーワードにして道内メディア関係者との研究会などに出席し、理論展開に向けた準備を準めている。 いっぽう、継続して調査を続けている新潟県巻町・柏崎市については、毎年1回の現地調査によって最近の展開を踏まえたうえで、平成15年度末に巻町民を対象としたサーベイ調査を実施した。1000名に郵送配布したところ40%の回収率を得て、現在解析中である。この分析結果を踏まえて、新潟県巻町・柏崎市に関する調査をいったん完結させ、平成16年度から17年度にかけて著書にまとめる予定である。「多様化する地域」の姿の一端は、『地域社会学会年報第15集』に投稿した論文によって明らかにしたが、著書ではさらに詳しく展開したい。 なお、著書執筆の前提としての社会運動論の理論的検討を、樋口・長谷川・町村・曽良中編『社会運動という公共空間』成文堂に掲載している。
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