研究内容は以下のとおりである。 1.制度分析 目的の平等配分と手段の不平等配分に逸脱原因をみいだすマートンのアノミー論に発想を得て、戦後日本における「消費者信用制度の発展」「多重債務問題の進行」「破産制度の浸透」を関連づけるとともに、消費者金融業者への社会的抑止力の低下が当該企業の活動や関係機関の動向に与える影響を調べた。消費者信用制度は、消費者の購買機会を幅広い階層にまで広げる役目を担う存在として成長、70年代以降は収益性の高い(借り手にとってはよりリスクの高い)消費者金融に重点が置かれていく。なかでも消費者金融専業者は、他業種同業者との熾烈な競争を背景に、借入需要の高まりと有望な融資先として注目を得て、二極分化のなか市場占有率の大幅な引き上げに成功する。こうした動きに連動し、消費者の家計に占める返済負担率も70年代以降上昇しているが、返済困難に陥るケースは借り手の階層差を反映し、資力のない人びとに集中している。70年代末以降急増する個人破産は、そうした資力のない人びとに対する事実上の「セーフティネット」の役目を果たす。この間、消費者金融の望ましいあり方に対する社会の見方は大きく揺れている。消費者金融業者への寛容度は高まり、多重債務問題の原因を借り手の側に還元する動きが強まりつつある。以上の内容は、現在、投稿中である。 2.多重債務者の救済制度 これまで行ってきた多重債務者自助グループへの参与観察に加え、新たに、消費者金融業界によるカウンセリング活動、多重債務者救済に関する行政研究集団への調査を開始した。 3.企業研究 消費者金融業者による逸脱に関する事例調査を開始した。報道関係者への聞き取り、統計書や関係記事などの渉猟をおこなった。 4.多重債務者救済に関わる法律専門職に関する実態調査 ある地域の司法書士会全会員を対象にした質問紙調査の回収作業が今年度末に終了。現在、分析中である。
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