研究概要 |
本年度は,後期フロムにおける「サディズム」と「ネクロフィリア」の概念をとりあげ,その思想史的背景を解明すると同時に,より社会学的な観点からこれらの概念が有する現代社会への批判的分析能力を明らかにした。その研究成果は以下の通りである。 まずサディズム,ネクロフィリアの概念が持っている特殊,精神分析学的意味(「性愛」的意味)を相対化し,より哲学的に「ニヒリズム」との関係性を取り上げることにより,同概念の思想史的背景を明らかにした。とくに後期フロムのネクロフィリア概念が,ニーチェ=ハイデガーのニヒリズムとの対決によって思想的に練り上げられていたこと,後期フロムを特徴付けるヒューマニズム思想が,それ故,ニヒリズムを経由することによって形成されたものであること,具体的にはヒューマニズム思想が,ニヒリズムによってニヒリズムを超克するというパルマコン的契機を内包していること,を明らかにした。さらにこれらの思想史的考察を踏まえ,ネクロフィリアが社会心理学的には悪性ナルシシズムとして出現すること,ネクロフィリア及びナルシシズムに付随する存在論的不安が,現代社会における暴力の噴出(いじめ,ドメスティック・バイオレンス,アルコール依存症などのアディクション)と密接に関連していること,を明らかにした。 また,これらのフロム社会心理学の研究成果をフランクフルト学派の理論展開のなかで位置づける作業を行っている。とくにアクセル・ホネットの承認理論(recognition theory)と対象関係論,後期フロムの攻撃性研究との関連性について研究をすすめている。今年度はその準備作業として,ドイツ・フランクフルト大学社会研究所(2005年1月・フランクフルト)及び国際エーリッヒ・フロム協会(2005年3月・チュービンゲン)でのインタビュー,関連資料の収集を行っている。
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