本研究は、高齢者福祉施設における「看取り」の背景にある価値の構造の把握を目的としている。3つの調査を行った。 1.看取りについて先駆的な取り組みを行っている特別養護老人ホーム及びグループホームでヒアリング調査を行った。「天寿を全うする」「最期まで生き抜く」「人間らしく(その人らしく)」などの言葉から限りある命を主体的に生きるために配慮して施設での看取りが選択されており、一方で「家族と一緒に」「一度関わった人は最期まで」「隣りではこれまでの生活」などの言葉からこれまでの関わりやつながりをできる限り継続するよう考えられていることが推測された。 2.家族の集いにおいて、介護家族及び看取った家族の会話の参与観察を行った。「できるのなら最期はやはり家が良いと思う」と言いつつ、条件が整わず施設での最期を選択せざるを得ない状況が話された。また、「今更、手術などは思わないけれど、少しでも楽にすごせるのなら診てもらいたい」と言いつつ、転院や新たな検査などの負担が大きくあきらめざるを得ないことが話された。 3.看取りについて先駆的な取り組みを行っているグループホーム及び小規模多機能サービス拠点において、これまでに看取った事例を振り返るヒアリング及び記録調査を行った。家族や経験の浅いスタッフは、看取りの過程で、どのような主張や手助けをすべきか自分の役割を探し続ける。疑問や葛藤をまわりのスタッフに話し、揺れ動きまわりを振り回し続ける自分が受け入れられ保障されると、それらを通じて、相手の心情を汲み違う主張に耳を傾けるようになり、食い違いが修正されていくことが推測された。 1.と2.から、高齢者福祉施設における「看取り」について、スタッフと家族の価値の構造に食い違いがあることが分かる。そして、3.から、看取りの過程において、価値が共有されるのではなく、価値の食い違いが互いに受け入れられていくことが分かる。
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