沖縄の一集落系移動民を対象にした長期的フィールド研究の成果によれば、かれらは出身地域での重層的な繋がりを基礎にしながら、それぞれの移動先の状況に適合しうるような繋がりの形をあらたに編み出してきた。本研究では、「共同性の再編」という観点から沖縄出身者の移動と定着の過程を捉えることとし、大阪、那覇、ハワイ等をフィールドにした補足・追加調査をおこなうとともに、これまでの成果の比較作業をすすめ、個々の状況下で柔軟に編みなおされる重層的な共同性の具体的様相をこまやかに考察することを目指した。 研究計画の初年度にあたる今年度は、戦後に沖縄本島内で起こった対象集落から都市への移動に焦点をあわせた。とくに那覇の新天地市場という衣料品卸市場を舞台とした女性たちの営みに注目して、2003年8月〜9月と12月の2度に分けて現地調査を重ねた。集落出身の女性たちが語るライフストーリーの考察をとおして、戦争で焼き尽くされた那覇の街が復興する過程にできた新天地市場という場所は、それぞれの家族を営む一人ひとりの女たちが出身集落ごとに結びつきながら市場全体としてもまとまるという重層的な集合体を形成してきたことがみえてきた。また、那覇や中部都市圏おける「郷友会(きょうゆうかい)」と呼ばれる集落や町村を単位とした同郷集団の形成過程についても注意を向けた。さらに2004年2月には、堺や大坂・西成などの地域で形成された親族の繋がりや集落レベルの同郷ネットワークの変遷を把握するための現地調査を実施した。また、以上の調査と並行させながら各地での研究成果の比較作業を進めた。
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