本研究では、欧米諸国に比べて特異な、日本的な自己意識・自己ステレオタイプ化様態の問題について、特に性別意識・性ステレオタイプ化の規定因を探求するために、潜在的測度と顕在的測度の両測度を用いて実証的に検討を行った。 まず、自己に対する意識自体の文化差について検討しておくために、自己とその対比としての他者に対する潜在的意識をIAT技法を用いて測定するとともに、伝統的な尺度評定法を用いて顕在的意識についても測定を行った。その結果、アジア文化的価値観の個人差の程度が、自己と他者に対する潜在的な意識においても影響を及ぼしていることが示され、このテーマを潜在的測度から扱うことの意義が確認された。 次に、性ステレオタイプ化について検討するために、性別混成状況下における性別分業に関するグループ・ディスカッションが、自己(と他者)に対する意識に及ばず影響について実験研究を行った。性別混成状況下での自己意識・自己ステレオタイプ化については、複数の競合仮説が存在し、今だ解決をみていないテーマである。加えて、日本での研究知見は、欧米で構築された仮説モデルとは合致しない特異な結果であることが示されている。この実験では、性別混成状況下での潜在的意識と顕在的意識の両面で測定を行うことによってこの乖離にアプローチした。実験参加者は、家事分担についてのディスカッションに参加し、ジェンダー・アイデンティティ尺度上で自己評定を行うとともに、IAT技法による潜在的な性別意識も測定された。主たる知見としては、性別構成の要因は、顕在的尺度上では女性実験参加者群において明瞭な影響が認められた一方、潜在的測度においては男性実験参加者群において明確な影響を有した。この知見は、ジェンダーについての自己意識における二面性の観点から考察された。
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