社会的交換の観点からすると、「他人が資源を独り占めにしてただ乗りするかも知れない」という不確実性が常に社会関係に存在する。実際の社会では様々な形で、この不確実性を低減している。その代表的なものが、ただ乗りを罰するような「制度」と、人々の「信頼感」である。本研究では、これまで比較的独立に研究されてきた、「制度」と「信頼」がいかなる関係にあるかに関する3つの実験を行った。最初の実験は2人一組の参加者が信頼ゲームをプレイするものである。このゲームでは、片方の参加者が、もう片方の参加者に資源(実験ではポイント)を託し、託された参加者はそのポイントを増やすことができるが、その後増やしたポイントをすべて自分のものにするか、自分に託した参加者と平等に分けるかを選択できるというものである。ここでは、託す側の参加者が相手をどれだけ「信頼」しているかによって、託す資源の量が決定される。そして「託される側が、ただ乗りをすると罰を受ける制度」(経済学でいう「人質」の供出)の効果を調べた。人質を自主的に出す条件と強制的に出す条件を設定し、比較検討した結果、(1)人質という「制度」を強制的に提供する場合、託す側の信頼は下がり、託す資源の量も低下する、(2)逆に自主的に提供する場合には信頼は高まり、託す資源量も同じが上昇することがわかった。手続き上の問題を修正した再実験でも同様の結果が得られたことから、「制度的な不確実性低減は、その方法によって信頼を破壊することも構築することもある」という結論が得られた。さらに、このような制度の提供に敏感に反応する人とそうではない人が存在することも、これらの実験で明らかとなった。さらにシナリオ型質問紙実験も行い、実際の具体的事例を用いても、一貫した結果が得られた。これらの成果は、2度の国内学会、1度の国際学会で発表され、また邦文論文2編と英文論文1編を学術誌に投稿中である。
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