人間の社会は、社会的・経済的な資源の交換によって成り立っているが、そのような交換が上手く運ぶためには、交換の相手に対し「自分を裏切るようなことはしないだろう」という信頼を持つ必要がある。特に、社会的関係の流動性が増大し、これまで遭ったことのない相手や、評判などの情報が少ない相手との交換の機会が増えている近年の社会状況では、新しい交換相手との信頼関係をいかに築くことができるかが、重要な問題となっている。この問題の解決策を探るべく、研究代表者は実験研究を行った。実験は2人一組の参加者が信頼ゲームをプレイするものである。このゲームでは、片方の参加者が、もう片方の参加者に資源(実験ではポイント)を託し、託された参加者はそのポイントを増やすことができるが、その後増やしたポイントをすべて自分のものにするか、自分に託した参加者と平等に分けるかを選択できるというものである。ここでは、託す側の参加者が相手をどれだけ「信頼」しているかによって、託す資源の量が決定される。そして「託される側が、ただ乗りをすると罰を受ける制度」(経済学でいう「人質」の供出)の効果を調べた。人質を自主的に出す条件と強制的に出す条件を設定し、比較検討した結果、(1)人質の提供そのものは不確実性の低減をもたらす、(1)人質という「制度」を強制的に提供する場合、託す側の信頼は下がり、託す資源の量も低下する、(2)逆に自主的に提供する場合には信頼は高まり、託す資源量も上昇するが、その上昇度は大きくない、(3)人質提供を受けた側が、集団で討議を行うことにより、人質自主提供の効果が増大する、これらの成果は、アメリカ社会学会、日本社会心理学会などで発表され、その成果は2本の学術論文(邦文1篇・英文1篇)と本のチャプターとしてまとめられた。
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