第一に、かねて実施してきた調査研究の成果の一部を論文にまとめた。この論文は審査を経て、Journal of Cross-Cultural Psychology誌に掲載された。研究内容の概要は以下のとおり:日本人大学生を対象として、1)自分の成功・失敗経験についてどのように原因帰属するか、2)その成功・失敗について周囲のさまざまな内集団・外集団他者(父、母、きょうだい、親友、同級生、初対面の人)がどのように原因帰属すると思うか、3)それぞれの他者との間にいかなる心理的関係性を築いているか、を回答させた。その結果、自らは成功を外的要因に、失敗を外的要因にという自己卑下的な原因帰属を行う回答者が、自分の身近な他者(家族や友人)には非常に好意的な原因帰属(すなわち成功を内的要因に、失敗を外的要因に帰属してもらうこと)を期待していることが明らかとなった。しかも、それらの他者が自分をよりよく理解していると思えば思うほど、好意的な原因帰属が得られると予期する程度は大きくなった。論文では、これらの結果を踏まえ、関係性の中に埋め込まれた間接的な自尊心高揚メカニズムについて考察した。 第二に、従来の「個人」偏重の社会心理学から脱却し、他者との関係性やさまざまな規模の集団を研究対象とする新しい視点を提唱すべく、日本社会心理学会第44回大会においてシンポジウムを企画、実施した(共同企画者は北海道大学・結城雅樹氏)。シンポジウムタイトルは「対人関係・集団・文化:『社会関係』の社会心理学に向けて」である。シンポジストはカナダブリティッシュコロンビア大学のスティーブン・ハイネ氏を含め、海外から2名、日本から2名の構成であった。研究代表者自身も日本側のうち1名として、他者との関係性に応じた原因帰属のあり方に関わるこれまでの研究成果に基づいて話題提供を行った。
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