昨年度に『Journal of Cross-Cultural Psychology』誌に掲載された研究の成果を受け、他者との関係性に応じて変化する自尊心維持・高揚メカニズムを明らかにするための調査研究を継続した。具体的には、周囲のさまざまな内集団・外集団他者(父、母、きょうだい、親友、同級生、初対面の人)との間にどのような関係性が結ばれているかを多角的に調査し、関係性の質的な違いを描き出した。多次元尺度法などを用いた分析の結果、6種の異なる関係性クラスターが見出された。それらのクラスターは文化人類学者Lebra(1976)の理論的考察とも合致するものであった。得られたクラスターを用いてさまざまな他者との関係性を類型化した結果、家族と親友といういずれも親密度の高い関係性が質的に異なる特質を有していることなどが明らかとなった。さらに、それぞれの関係性類型に応じて、異なる自尊心維持・高揚システムが機能することも確認された。以上の成果は、その一部を中国・西安にて開催された国際比較心理学会(International Association of Cross-Cultural Psychology)にて発表したほか、英文誌への投稿を目指して論文執筆中である。さらに、本調査を国際比較研究として発展させるため、香港や韓国など他の東アジアの研究者とも連携して共同研究の準備を進めている。 また、かねてより進めてきた「家族」の心理的意味と機能についての国際比較研究プロジェクトの成果がケンブリッジ大学出版より刊行されることが正式に決定した(現在印刷中)。書名は"Families across cultures : A 30 nation psychological study."である。申請者はこの中で日本データに関する分担執筆を行っている。このほか、昨年度に日本心理学会の機関誌『心理学研究』に掲載された山口勧・東京大学教授との共著論文、「"自己卑下"が消えるとき-内集団の関係性に応じた個人と集団の成功の語り方-」が、日本心理学会の優秀論文賞を受賞した。
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