本研究では、個人の価値観を、その人のライフコースや職業選択といった生き方において現れてくるところでとらえ、その時代的特徴と普遍性を明らかにすることをめざしている。これまでの研究の蓄積および今年度に行った文献研究から、特に、生き方における自己の問題に焦点をあてて"自分探し"行動の意味について心理学的アプローチを行うことに焦点を当てることとした。それぞれが探している自分とはそれぞれいかなるものであるのか。この問いを切り口とすることで、現代社会における多様な価値観の具体的な様相を浮き彫りにしていくことができるであろう。 今年度は、前半は、文献研究と問題意識についての意見交換を行い、それらを生かす形で、後半では、調査に向けての準備とその実施を行った。 まず、8月にイタリア・ミラノカトリック大学で開催された第11回ヨーロッパ国際発達心理学会において、本研究に関連する研究発表(題目:自己嫌悪感と自己成長)を行い、それをたたき台とした意見交換を行った。続いて、スイスのユング研究所に赴き、現地での自分探しの様相について日本人留学生と意見交換を行った。また、9月に東京大学で開催された日本心理学会第67回大会において、「『自己』という問題」というテーマでのワークショップを企画、話題提供を行い、問題意識の共有を呼びかけた。 調査としては、インタビュー調査と質問紙調査とを行っている。インタビューは、50代の男性会社員1名(電気メーカー勤務、人事担当)対象、学生時代から現在に至るまでの自己の変遷過程をテーマに行った。テキスト化を行い、現在分析中である。これについては今後さらに人数を重ね、それらと併せて発表していく予定である。質問紙調査は、大学生約130名を対象に、個人が価値を感じる自己の様相を明らかにすることを目的とした調査を実施した。現在分析中であり、来年度の日本教育心理学会第46回総会で発表予定である。
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