<本研究の目的> これまでのフィールド経験より75歳以上の高・高齢者(old old)の多くは、半ば確信的とも思えるような「自他に対する認識」を持つ。この認識は心理学的にはアイデンティティの一部として位置づけることができると考えられる。本研究は、その形成過程を、岡本祐子による「形成と破壊を繰り返しながら生涯的な課題として追求される」というアイデンティティのラセン型発達モデルを用いて、記述・検討することを目的とする。 <平成15年度の研究実績> 平成15年度は、高齢過疎離島およびハンセン病療養施設に在住する高・高齢者との対話を行い、それを分析した。調査協力者は全部で6名。 その結果、現時点で把捉されている事項は次の通りである。 (1)離島高齢者:「労働」に大きな比重が置かれている。今なお働き続けることができる自分に高い価値を置いている。腰痛など体の不調も労働の勲章のように位置づけている。女性では、このほか「家」を守ることの重要性を述べるものが多い。これらの認識は若いとき以来ほぼ一貫しているようであるが、老化現象や疾病経験との関係で調整はされている。 (2)ハンセン病療養施設高齢者:特効薬プロミンの開発以前は長期的な人生展望は描けていなかったが、その後は社会との限られたかかわりのなか、職業を求めた人、名誉回復運動に没頭した人がいた。しかし、老いや病気の再発と共に著述や書、盆栽など施設内でできる活動に移行している。近年の状況変化は新たな人生の転機となっているようである。
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