今年度は、昨年度に引き続き、M県の離島と首都圏内のハンセン病療養施設に在住する高齢者に対する語り聞きを中心とした面接調査を実施した。 M県の離島の高齢者は子育て経験と職業経験を持つ。一方、ハンセン病療養施設の高齢者は結婚をしているが子育て経験を持てず、また職業経験も持てなかった場合が多い。 両者の語りを比較すると、特に「自らの生涯に関する評価」や「社会生活」に関する点で違いが推察された。両者とも、「島しか知らない」「療養所の外を知らない」というように、自らの活動領域の狭さをあげて、自己や生涯を否定的に表現することが多い。しかし、離島高齢者は、そのように否定的に述べつつも、子どもを一人前に育て上げたこと、また漁業従事という職業をやりとげ、そして今なお現役であることを誇りにしている。他方、ハンセン病療養施設の高齢者は、子どもがいないが故に何かをこの世に残したいと考えている場合が多く、それが彼らの活発な文芸活動や自治会活動の原動力の1つとなっている。しかし、継続的な職業を持てなかったこと、さまざまな活動をしても結局は園内あるいはハンセン病者としての扱いであること、などから、たとえ文芸活動や自治会活動などで高い実績をあげた人々でさえも、高い自己評価を持ってはいないようである。以上より、生涯発達における生殖性(世代継承性)や社会的評価を受けることの意義がうかがわれる。
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