研究課題
昨年度に引き続き、首都圏内のハンセン病療養施設に在住する高齢者に対する語り聞きを中心とした面接調査を実施した。これまでに行われた過疎離島在住の高齢者に対する調査をも踏まえた総合的な結果は、おおよそ次の通りである。アイデンティティ発達過程のモデルとしては、エリクソンによる漸成モデルが伝統的であるが、近年岡本によりラセン形モデルも提唱されている。ハンセン病療養施設入所者の生涯をみると、青年期であった終戦直後にはまだ医学的に治癒不能であり、また厳しい生活条件のなか生き抜くのが精一杯の状況であった。それでも、結婚をはじめ、自らの可能性に挑戦し、また生存した証をこの世に残そうとする試みも行われた。エリクソンの青年期以降の発達課題がいわば同時に押し寄せてきたようなものであった。その後、治癒可能となり、死の恐怖から解放され、改めて「如何に生きるか」が問題となった。しかし、入所者の多くは施設への定着を余儀なくされ、施設内で許されていた営みを高齢期になるまで続けざるを得なかった。そして、高齢期に入った1990年代、社会的な理解も徐々に拡大していくなか、ハンセン病元患者に対する国の政策を問題視する外部の人々が現れた。こうして外部社会との頻繁なかかわりを経験する入所者も現れ、社会認識や自己認識が変化する者も出てきた。入所者の生涯は概してラセン型であるといえよう。他方、過疎離島の高齢者は、生活空間に大きな変化がなく、あっても家庭内にとどまっており、この場合は成人期に形成された自己認識や社会認識が、身体状況との調整はされるものの、高齢期に至ってもほぼ維持されており、ラセン型というより漸成型である。しかし、日々日常生活が淡々と展開されており、必ずしも死を意識した人生の統合が行われているとはいえない。このように、生涯の経過が社会や生活空間の状況によって変わりうる可能性を本研究は示したと考えられる。
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日本発達心理学会第17回大会発表論文集
The Proceedings of the Fourth Annual Hawaii International Conference on SocialSciences (CD-ROM版のため抽出不能)