研究概要 |
対人恐怖は日本の青年期に頻発する病態であり、発症に至らずとも日本青年は広く一般的に対人恐怖の傾向、すなわち対人恐怖心性を持ちやすいことが知られている。従来、対人恐怖心性の測定ツールとしては主に1974年に小川捷之が開発した「対人不安意識尺度」およびその改良版の「対人恐怖心性尺度」(堀井・小川,1996)が活用されてきた。しかし近年、対人恐怖の心理的特性は「恥」の心性から「おびえ」の心性に移行しつつあり、また、従来の尺度項目は古典的な「恥」の心性が中心となり、現代的な「おびえ」の心性が内包されていないという問題が指摘され、今日「おびえ」の心性を内包する新しい尺度の出現が待たれていた。 本研究(2年間)は現代青年の対人恐怖心性を測定する新しい尺度の作成を目的とし、初年度は主に以下の結果が得られた。 1.尺度項目の収集 対人恐怖に関する従来の文献を整理するとともに自験例分析から現代の対人恐怖症者の「おびえ」を内包した自覚的悩みを収集し、さらには一般青年を対象とした調査から対人恐怖的な「おびえ」に纏わる悩みを収集し、計100項目から成る「対人恐怖心性尺度タイプII予備調査版」が構成された。なお従来の対人恐怖心性尺度(堀井・小川,1996)は「対人恐怖心性尺度タイプ1」(以下「タイプI」と略す)と命名された。 2.予備調査の実施とデータ分析 407名の一般青年を対象に「対人恐怖心性尺度タイプII予備調査版」を実施し、項目間相関、天井効果、フロア効果などの検討を経た後、因子分析を実施した結果、5因子が抽出された。第一因子は「劣等恐怖」、第二因子は「ふれあい恐怖」、第三因子は「自己視線恐怖」、第四因子は「被害恐怖」、第五因子は「加害恐怖」と命名された。その因子数のもとで下位尺度化を図り、5尺度25項目から成る「対人恐怖心性尺度タイプII」が作成された。 本尺度は十分な内的整合性を有することが確認された。また、本尺度と「タイプI」(6尺度)とを併せた11尺度得点に基づき因子分析を行った結果、2因子(「おびえの心性」と「恥の心性」)が抽出され、因子的要因という観点からも本尺度は古典的な恥の心性とは別次元であることが確認された。次年度は尺度の妥当性がさらに検討される。
|