本研究の目的は、病初期のAlzheimer病(AD)患者を対象とした認知リハビリテーションプログラムを開発し、その短期的および長期的効果を検討することである。本年度は、国内外の研究レビューによる最新の知見の整理、および病初期のAD患者とその家族を対象としたメモリートレーニングプログラム(MTP)の実践を通じて、初期ADを対象とした認知リハビリテーションプログラムの開発および有効性の検討を試みた。 研究レビューから、病初期のADを対象とした認知リハビリテーションでは、正しい情報の反復学習を行う「誤りなし学習」が試行錯誤を要求する訓練課題よりも有効であること、本人の機能レベルに応じた環境調整や外的補助手段の利用による代償による生活障害の緩和が可能性であることなどが示唆された。MTPの実践では、神経心理学的検査から得た認知機能プロフィールに基づいて作成した個別プログラムを実施した。このプログラムによる実践から、MTPには、その効果に個人差はあるものの、認知機能の機能回復および生活障害の緩和といった効果が期待されることが示唆された。個々の患者に注目すると、MTP参加後、認知機能の成績に改善の認められた患者もいれば、何ら効果を示さない患者もいた。効果の認められた患者のなかには、MTP参加6ヶ月後の時点まで、改善の傾向が持続した患者もいた。さらには、情動や意欲に改善が認められた患者もいた。 以上の点から、MTPには、初期AD患者の認知、行動、情動といった心理機能の多領域に変化をもたらす可能性のあることが示唆された。しかしながら、こうした効果の全く認められなかった患者もおり、どのような患者にはどのようなプログラムが必要か、あるいは、治療効果に影響する要因は何かといった点の精査が今後の課題として明らかになった。 なお、以上の研究実績ついて、現在、国内外の学術雑誌への投稿準備を進めている。
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