研究概要 |
昨年の調査において,学校画における人物像の顔の向きと,教員への近接性欲求,教室での気分の安定性,学習状況を描いているか否かと学校適応との関連が推測された(田中,2003)。本年度は,第1段階として学校適応にのみ限定せず,精神的な適応や健康度,つまり被調査者の不眠や不安感が何らかの心理的臨床な援助が必要なレベルに達しているかを評価するGHQ28との関連を検討した。昨年も学校画を描いた児童生徒を含む,小学3年生から中学2年生までの2010名の児童・生徒にGHQ尺度を含む質問紙と動的学校画を実施した。第2段階として学校画の内容に,クラスムードによる差異があるかどうかを検討するために,各クラス担任に,クラスの学級崩壊傾向を測定する尺度(田中,2002)を含むアンケートを実施した。続いて,描画特徴と,描画者の視覚記憶と再認に関わる認知機能との関連,社会性の成熟度との関連を検討するために,第3段階として第1段階で学校画を実施した小学生3年生〜6年生までの計106人に,WISC IIIの二つの下位検査(絵画完成・理解)を行った(各学年19名以上)。大量のデータであり,縦断研究として整理中なので,全ての解析が未だ終了してはいないが,現在の時点で得られた知見は以下の通りである。(1)昨年教室内を描いている児童・生徒は,本年度も同様に教室場面を描く傾向にあった。しかし,小6から中学生になった描画者は部活動場面を描く割合が他の学年よりも高かった。(2)クラスによる学校画の内容には差異があり,特に先生に怒られる場面を描いた生徒数に差が見られた。(3)WISC IIIの「理解」と学校画の統合性の間に,一部の学年で相関が認められ,描画者の社会経験の広さ成熟度が,学校画の内容に影響を及ぼすことが推察された。以上から,学校適応以外の精神的な成熟度や心身の健康度も学校画の描画内容と関連する可能性が考えられた。
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