本研究は、初回面接におけるクライエントとセラピストの主観的体験を、インタビューをもとに、質的方法を用いて検討した。本年度は、大学付属心理臨床センターに来談した10人クライエントと彼らを担当した10人のセラピストに対して、初回面接終了後に半構造化インタビューを実施し、初回面接の体験について語ってもらった。クライエントへのインタビューは15分から40分であった。セラピストへのインタビューは、60分から90分行った。本年度は、クライエントに対して行ったインタビューにおいて、初回面接の予約を電話で入れてから、初回面接を訪れるまでに起こった治療前変化(Pre-treatment change)についても質問を加えた。 データ分析は、グラウンデッドセオリー法を用いて行った。まず、インタビューの音声データから逐語録を作成した。次に、クライエントとセラピストの体験の意味合い、そして面接中に起こった変化の出来事(in-session change events)を示すカテゴリーの生成を試みた。本年度の分析は、前年度のインタビュー・データから得られたカテゴリーを補い発展する形で行った。前年度の研究において得られた肯定的体験を意味する{心力回復の一歩}と否定的な意味合いの体験である{保留}の新たな下位カテゴリーがそれぞれ得られた。クライエントによって報告された治療前変化は、主に「自分自身を見直すことによる気づき・理解」「支えが待っていることの落ち着き」などが見られた。これらの肯定的な治療前変化を報告するクライエントは、初回面接においても肯定的体験をもつ傾向があった。
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