本年度は以下の内容で研究を進めた。成果とあわせて報告する。 1.被受容感・被拒絶感と他者注目操作における情緒変動に関する実験 重要他者との交流は情緒の調節手段として考えられるが、被受容感・被拒絶感に問題のある場合は他者との交流が情緒調整手段として機能せず、そのために抑うつ気分が長期化する可能性がある。大学生および一般の社会人を被験者とした重要他者への注目操作実験の結果、他者に大切にされていない、あるいは、他者にないがしろにされている、と感じている人は重要他者への注目でむしろ情緒が否定的に変動することが確認された。他者からの扱われ方の認知が気分の障害に関与していることが検証されたといえる。社会心理学会44回大会、認知心理学会第2回大会で公表。 2.縦断的調査による抑うつ気分の持続プロセスの検証 抑うつの自己-他者過程モデル(杉山、2002)を縦断的資料から検討した。「対人関係認知-自己認知-対人関係-対人関係認知」の循環過程から抑うつの持続を説明するモデルである。4ヶ月に渡る継続的な資料収集の結果、男性、女性ともこのモデルが支持された。また、自己没入には過去に気持ちが向かいやすい時間性認知の問題が伴うことも明らかになり、モデルも検証された。WCBCT2004(予定)で公表。 3.医療・教育・福祉領域における心理的介入方略の研究 抑うつ者における被受容感を高める他者対応に関する基礎資料を収集し整理した結果、「つらいことには触れない」「常に一緒にいてくれる安心感」「一人にされていない感じ」が情緒の回復と安定に深く関与することが示唆された。この見解に基づき、心理的対応を行った事例を検討した結果、これらの対応が十分になされた後、事例に適応的な変化が生じやすいことが検証された。一部を長野大学紀要、心理臨床学会第23回大会で公表。
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