本研究では、Ironic Processによる睡眠障害の病理モデルを構築し、睡眠障害を対象としたAcceptance and Commitment Therapy(ACT)を臨床応用することが目的である。Ironic Processとは、心的事象を意図的に統制しようとすると、むしろ意図とは逆に悪化してしまう状態をいい、睡眠障害においても同様の病理があることがこれまでの成果で実証された。そこで本年度は臨床プログラムを作成した。本プログラムは先行研究を参考に、acceptance過程と、choose and take actionの過程に分かれている。前者では、Ironic Processの病理に触れながら、そこからの脱却を目指す段階である。特に、人間特有の言語の働きに問題があることが指摘し、その機能低下を図っていく。また、後者では、個々人がもっている価値について振り返り、それに基づいた生活ができるような支援を行っていくことを狙いとする。本プログラムの特徴は、これまでの行動主義の立場と比較すると、メタファーやエクササイズを主要な技法とすること、価値の作業に重点を置き、これが治療動機と関係していくこと、等の特徴が指摘される。また、本邦でも行動変容に重点をおいた睡眠改善プログラムが提案されており、acceptanceの段階の一行程の理解を図る際に応用可能であると考えられた。なお、本研究では、効果検証をもう一つの目的としていたが、対象者の協力が得られなかったため、臨床家やこれまでの研究協力者を対象にインタビューを行い、考えられる問題点について検討することとした。その結果、睡眠に関わる認知統制の困難さを解決する点で効果が期待される一方で、エクササイズやメタファーが必ずしも治療者の意図と理解しないこと、またacceptance達成の困難さと個人差がある、等の課題が指摘された。
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