本研究は、聞き手が音楽鑑賞中に楽曲のどのような音響的・構造的特徴に注意を向けるかを自由記述によって調べた。自由記述を記述単位に分割し、それらを36の下位カテゴリーに分類した上で、音響的特徴、音源、パターン、認知的枠組、形式・様式、構造・期待、印象、記憶知識、連想、評価の10の上位カテゴリーに分類した。一般に、音響的特徴、音源、パターン、印象に関する記述は多かったが、その他の項目の記述は非常に少なかった。ただし、音楽経験が豊富な聞き手は、認知的枠組、形式・様式、記憶知識の項目の記述は比較的多かった。聞き手が音楽の音響的・構造的特徴に注目する仕方は、クラスター分析の結果、主に音響的特徴、音源、パターンのどの項目の記述の割合が多いかで、大きく6つのタイプに分けられた。 A「平均(準音源)型」:ほぼ半数の聞き手が属する。音源に関する記述が最も多いが、音響的特徴、パターンに関する記述も2割程度ある。経験豊富群が6割を占めており、認知的枠組、形式・様式に関する記述が比較的多いのも特徴である。 B「音響音源型」:音響的特徴と音源がともに多い(4割弱)のに対し、パターンはそれほど多くない。 C「音響パターン型」:音響的特徴が最も多く、ついで音源とパターンの記述が2割程度あるが、パターンの記述の割合が6つのグループの中で最も高いのが特徴である。 D「音響印象型」:音響的記述が最も多い(ただし1/3程度)。他グループと比較すると、印象の記述の多さが抜きに出ている。 E「音源集中型」:5割近くの記述が音源に偏っている。他グループと比較すると、認知的枠組と評価の割合が高いのも特徴的。 F「音響集中型」:5割強の記述が音響的特徴に集中している。
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