研究概要 |
本研究の目的は,視覚,聴覚,および体性感覚を物理刺激として,これらの各モダリティおよびクロス・モダリティ提示刺激からの自己運動知覚がどのように生じるかを検討することである。 本年度は,(1)自己運動に起因するオプティカルフローと対象運動によるフローを重畳提示し,さまざまな視覚機能,さらに行動制御への影響を調べ,(2)聴覚情報と視覚情報のクロスモーダル提示が視覚機能・行動制御に与える影響を調べた。(1)では,広視野ディスプレイにランダムドットによる放射運動と平行運動を重畳提示し,受動的な重心動揺測定,および簡易型ドライビングシミュレーターを用いた能動的進行方向操作の実験を行った。(2)では,位相反転する正弦波状グレーティング(運動方向が曖昧)を提示し,音圧変化による移動音源を同時提示することによる視覚情報の聴覚捕捉,およびそれらによる重心動揺を測定した。 実験の結果,(1)放射運動と平行運動の重畳刺激という同じオプティカルフローを用いているにも関わらず,受動的重心動揺の結果は,瞬間的進行方向判断および能動的進行方向操作とは異なる結果となった。重心動揺,つまり、視覚性姿勢制御を担う処理は,複数のオプティカルフローを並列的かつ自動的に処理し,生体にとって情報量の多い方をより効率的に利用するのに対し,進行方向の知覚と操作は,運動情報を統合的に処理し,意識に上った知覚現象・表象に基づいて行われると考えられる。また,(2)からは,聴覚情報によっても重心動揺が生じ,さらに視覚情報が聴覚捕捉されることによって重心動揺が増強した。つまり,視覚性姿勢制御には,複数モダリティの情報が利用されている可能性が示された。
|