研究概要 |
本研究では,催眠下で刺激となる単語を呈示し,その後PHA暗示を与え,PHA暗示の解放前と解放後に潜在記憶課題を行なわせ,PHA暗示解放前後の潜在記憶課題の遂行を比較検討することを目的として実験を行なった.PHA暗示が潜在記憶の遂行には影響しないのであれば,催眠感受性の違いによるPHA暗示の解放前後の単語完成率に差が認められないと考えられる. 方法:対象は女子短期大学生および専門学校生の72名(男性21名,女性51名).催眠感受性の測定には,Harvard Group Scale of Hypnotic Susceptibility, Form A(以下,HGSHS:A;Shor & Orne, 1962)をすべてMDに録音し実験に使用した.単語完成課題に用いる単語フラグマントおよびターゲット単語は,藤田(1997)より,未学習状態での単語完成率が14%の単語フラグマントを3つ選択し,6つのフィラー単語を挿入した合計9項目からなる学習リストを作成した.、単語完成課題で使用するテストリストは,完成するとターゲット単語となるフラグマントを1つ含む10個のフラグマントから構成された3つのリストを作成した.要した時間は,全体で約70分間であった. 結果:PHA暗示解放前・解放後ごとに,催眠感受性高群と低群とのターゲット単語の完成率について,Fisherの直接確率の検定を行った.その結果,PHA解放前・解放後ともに,催眠感受性による単語完成率に違いは,認められなかった(解放前:p=.67;解放後:p=.55).つまり,PHA解放前であっても,解放後であっても,催眠感受性の違いが,潜在記憶に影響しなかったと考えられる. 考察:PHA解放前のターゲット単語の単語完成率を比較すると,催眠感受性高群と低群との間で差は認められなかった.また,PHA暗示解放後のターゲット単語の単語完成率を比較しても,催眠感受性高群と低群との間に差は認められなかった.つまり,PHA解放前・解放後ともに,PHA暗示は,潜在記憶課題に影響しなかったと考えられる.この結果は,PHAは潜在記憶課題では認められないという先行研究を支持する結果である.
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