平成17年度は、本研究の最終年度ということで、国内の複数の研究者によるレビューを受けることを通して研究成果に関する外的評価と検討を加え、研究の総括を行うとともに、成果の発表に向けて力を注いだ。 まず、18世紀から20世紀初頭にかけて西洋で活躍した代表的な教育思想家のテキスト分析を通して、<自律性>概念の成立過程について、母性概念の教育学的機能の変遷と関連づけながら考察した。この成果は、「教育学的概念としての<母性>」という主題で、2006年度発行の学会誌に投稿することにしている。次に、<自律性>概念を巡る今後の展開について考察した結果を、「ケアの場における<かたり-聴くこと>、そして<書くこと>」(『ケアリングのとき-こころと手-』、2005)という論文にまとめ、発表した。ここでは、主体として自律的に行為する人間を支えるには、<かたる-聴く>あるいは<書く-読む>の連鎖的ネットワークを形成する必要があることを指摘した。 こうした研究を通して、新たな課題も見出された。それは、教育思想そのものの自律性という問題である。これまで教育思想に関する歴史的研究といえば、ある時代の教育思想について同時代の政治的・経済的・社会的・文化的な文脈や思想家の個人史的な背景に照らしつつ教育思想のテキスト分析を行うという手法が一般的であった。しかし、教育思想の社会的影響力は、多くの読者の存在があってこそ発揮されるものである。読者が教育思想の解釈や社会的な位置づけ、そして著者による修正や改訂にどのような影響を与えたか。この問題に関する考察は、国際的にもまだほとんど見られない。今後はこの課題に取り組んでいきたい。
|