研究概要 |
本年度の研究は、次の二つの側面において行った。女性と教育の関係構造の史的展開のなかでも、最も重要な鍵となる近代初期英国の母親像の転換(雑誌論文1)と、その転換を用意し、可能にした、女性や家族、子どもの成長過程を支える生活世界の変容(雑誌論文2)に関する整理である。第二に、研究対象のコンダクトブックに関する把握と入手、整理である。 第一点めに関しては、先行研究をふまえ、以下のような論点についての更なる探究が課題として浮上した。Crawford, P.が'The construction and experience of maternity in seventeenth-century England', in Fildes, V.ed.,Women as Mothers in Pre-industrial England,1990などの一連の研究において徐々に明らかにし始めている、母親役割の転換に関する女性たち自身の経験や世界観の転換、出産体験や出産にまつわる身体観の変容、Wayne, V.が本研究の対象史料であるコンダクトブックのなかでも女性むけに書かれた助言書について分析した,'Advice for women from mothers and patriarchs'in Wilcox, H.,ed.,Women and Literature in Britain,1500-1700,1996のような、出生に関する母と父の関係を生命(出生)観史の視点は、よりその時代の意識や感性、世界観に即し、変容の詳細な過程を明らかにすることが必要である。その意味で、彼(女)らが生きていた生活世界、即ちどのような人々とモノに囲まれた日常生活のなかで、女性が育児/子育ての担い手として、また教育を施される対象として、注目されはじめたのか、ということを明らかにする視点である。中世から近代初期の生活社会史研究の成果は、本研究の課題に重要な示唆を与えるものである。あるいは、Brown, S.,"'Over Her Dead Body':Feminism, Post-structuralism, and the Mother's Legacy",Comensoli, V.and Stevens, P.ed.,Discontinuities : New Essays on Renaissance Literature and Criticism,1998などが指摘する、キリスト教社会において「弱き器」とされた女性が、母親向けのコンダクトブックを「書く」ということ自体の新しさに注目し、言説の特徴を読み解いていくことの重要性は看過できない。 第二点めについては、近代初期の女性による女性のためのコンダクトブックのコレクション(マイクロ)としては第一級の"Women Advising Women"(Bordorian Libraryコレクション)のPart5"Women's Writing and Advice,1470-1700"を入手し、把握につとめると共に、オリジナルをブリティッシュライブラリーにおいて確認し、補完すべきものについては入手につとめると共に、データ化を進めた。
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