フランスの教育社会学の先行研究より、学業不振の主な理由は、その生徒の文化資本、家庭環境によるところが大きいとされてきた。そのため、1981年に教育優先地域「ZEP」政策が実施されるに至る。低学力児童生徒の底上げ対策として、イギリスのプラウデン報告に学んだとされている。 その当時(1960年代後半)のパイオニアであったアラン・ブルガレル氏へのインタビューを昨年末に行い、政策の実施に至る背景を分析することができた。当時の教育雑誌や教職員組合関係誌などをさらに収集し、解読しながら、今日まで日本では明らかとされてこなかった政策実施過程を明らかにした。 また、初年度の実態調査として、パリおよびリヨン市近郊の郊外問題として名声のある地区のZEP校区の学校をそれぞれ視察した。なかでも、現在フランス国内で争点となっている超エリート校と呼ばれるグラン・ゼコールへのZEP高校からの特別入試枠の導入による積極的差別是正政策の是非について調べた。これらの高校を1週間参与観察し、学校、教師および生徒文化について考察をした。また、受け入れ側の高等教育機関も視察し、担当者やすでに特別選抜によって入学した学生とのインタビューを行った。この問題は、いわゆるフランスのエリート層の民族的、文化的、経済的、社会的背景の多様化を試みた、ZEP政策のなかでも奇異な取り組みとして今後も追跡調査をしていきたい。 なお、この調査報告については、現在学会誌に投稿中である。
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