平成15年度は本研究成果として、次の2論文を発表した。(1)では少年院在院生、(2)では一般中学生を対象とした調査データを用いて、心理学的手法による教育環境の測定結果を、教育現場に有効にフィードバックするための、心理学者と学校現場の教師との連携について論議した。 要約(1)「少年院在院者による施設環境評価-日本語版CIESの検討-」 Moos(1974)は、人間の心理・社会的環境を構成する基本3次元『人間関係』『個人発達』『組織の維持と変化』を提唱した。米国では既にこの理論に基づく矯正施設環境評価尺度CIESが標準化されている。本稿では、日本版CIESの作成に向けて、少年院6施設でのデータについて数量化III類によるCIES構成次元の探索を目的とした構造化分析を行った。結果、オリジナルの3次元に対応する3軸「心理的な援助」「実用的な指導」「指導方針の明確さ」が抽出された。分散分析の結果、各施設に有意な差が認められた。これらを踏まえて、環境尺斐が矯正教育現場で活用されるために必要な視点について論議した。 要約(2)「Technology-rich Learning Environments : A Future Perspective(第16章)」 心理学的手法による環境尺度では、「現実」だけでなく生活者が「好ましい」と考える環境についても測定が可能である。この手法で測定された知見は、例えば、現実と好ましい環境を一致させることで学習効果を高めるなど、教育環境の具体的な改善に活用できる。本稿では、一般中学生を対象に独自の学級環境尺度を実施した。結果、「現実の学級」では、生徒は教師が考える以上に「コントロール」「孤独感」「課題の難しさ」「規律」を深刻に受け止め、一方「好ましい学級」の状態については教師-生徒間に有意な差はなく、教師も生徒も思い描く学級の理想像は一致していることが示された。
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