研究概要 |
1.中国とロシアを事例に「市場経済移行国」の社会構造を解明させる教授書(約7時間)を開発した。教材にはNHKのドキュメンタリー番組を取り入れ,同番組の中国解釈を批判的に学習させるとともに,そこに提示された知識をさらに体系化,一般化させる単元構成を試みた。これまで「総合的社会科学研究としての地理教育」の授業は,国家社会の学習,とりわけ先進国・発展途上国の学習に限定される傾向にあった。本研究で開発した教授書試案によって,総合的社会科学研究の対象を旧社会主義国にまで拡張させる方法論を示すことができた。 2.沖縄と山口を事例に「地域の特色」「地域の区分」の概念を解明させる教授書(約6時間)を開発した。ウェブやポスター,文献資料などに現われた言説を批判的に読み解くメディアリテラシー指導を組み込むことで,他者によって地域像が科学的・社会的に構成される過程を対象化させる単元構成を試みた。これまで「地理学研究としての地理教育」では,地域(の区分や特色)の存在が所与として扱われる傾向にあった。本研究で開発した教授書試案によって,これらの概念をメタ的に認知させる方法論を示すことができた。 3.米国を調査フィールドに,近代社会・近代学校で必要とされた地理カリキュラムを網羅的に収集し,地理教育内容編成論の類型化を試みた。あわせて,同成果を日本の授業開発に応用する論理を提起した。本研究を通じて,いわゆる「地理科」と「社会科地理」の差異,意義ならびに限界を,原理的なレベルのみならず,具体的なカリキュラム・授業に即して論証することに成功した。
|