研究概要 |
本年度は,これまで日米両国で発表されてきた地理カリキュラムおよび地理授業を収集し,地理教育論の全体像の解明につとめた。その結果,以下の成果が得られた。 1.日本の地理カリキュラム・地理授業については「地理主義教育論」と性格規定し,同理論の下位類型の設定と事例の位置づけを試みた。具体的には,(1)学問的地理学教育論と教育的地理学教育論,(2)内容主義教育論と方法主義教育論の各視点を設定し,これらを掛け合わせることで4つの類型をみちびいた。また,各類型を代表するカリキュラム・授業の事例を指摘するとともに,「地理主義教育論」に共通する課題として,国家・社会の理解が十分に保証されず,国民・市民教育にコミットしない,むしろそれを妨げる点を明らかにした。 2.米国の地理カリキュラム・地理授業については,インディアナ州教育省の成果に注目し,「地理主義教育論」の一般モデルを明らかにした。同カリキュラムは,(1)社会を研究対象にしていること,(2)地理学固有の分析視点を限定的に位置づけ,人文・社会諸科学の視点を広く活用した「総合社会研究」になっていること,(3)世界各地の様々な事例研究を媒介にして,身近なコミュニティーの特質や課題,自らの参加・行動のあり方を考えさせる「間接社会研究」になっていること指摘した。あわせて,地理主義教育論と比較したとき,国家・社会の理解が担保され,国民・市民教育にコミットする程度が大きいことを明らかにした。 3.一連の研究で,「地理主義教育論」と「地理主義教育論」の目標論,教科課程における地理の位置づけの違いが浮き彫りになった。前者は,地理・歴史・公民の三分野制を擁護し,現行の国家・社会に子どもを適応させる思想教育に陥りやすいのに対して,後者は,統合社会科を志向し,国家・社会に対する子どもの自立的・主体的な思想形成を支援しうることを明らかにした。
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