本研究では、20世紀前半の学校教育における軽度級「精神薄弱」児の析出過程と彼らに対する分離的教育の実態について、米国を中心に、明らかにした。具体的には以下の3点が考察された。(1)通常学級における学習課題未到達者・留年者の問題が精神薄弱児問題へと焦点化されていく経過が明らかになった。特殊学級対象児の選定は、通常学級担任と校長に権限があったが、特殊学級教員は、選定に関わる情報の収集と提供で連携を図った。また寄宿制特殊学校(施設)は、知能検査やクリニックに人材と知識・技術を提供した。(2)この対象の焦点化は、教育の試行錯誤の結果であり、独自の教育カリキュラムを生み出すこととなった。通常の教育方法では成果の上がらない子ども、すなわち「精神薄弱」児に対しては、その発達段階に応じて生理学的教育法(発達段階の低い子)から始まり、感覚・手工訓練(発達段階中)をへて、職業訓練(発達段階高)へと実際的・経験主義的学習活動で、カリキュラムが構成されるようになっていった。特殊学級における適切なカリキュラムの編成や指導者の研修においても寄宿制特殊学校(施設)が公立学校と協働した。公立学校特殊学級は「精神薄弱」者を見つけだすためのフィルターとして、またその適切な教育の場として機能し、境界線児や仮性精神薄弱児にとっては、適切な進路・コースを見出すためのハブとしても機能していた。(3)米国における教育の場は、「通常学級」、「特殊学級・通学制特殊学校」、「寄宿生特別学校(施設)」の3つである。「通常学級」および「特殊学級・特殊学校」の終了・退学者は、「寄宿制特別学校(施設)」の提供する継続教育、地域支援サービスを受けながら、コミュニティでの自活あるいは保護的生活を実現した者たちがいた。
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