研究概要 |
平成12年度より実施している現職者を対象とした保育研修、および研修会でのフィードバックの材料として実施しているアンケート調査より、日常の保育で難しさを感じる「気になる子ども」の様相が大まかに共有されてきた(矢野・青木,2003)。そして、提出される事例をより詳しく検討したいという参加者のニーズから、観察者(研究代表者)が園を訪問して対象児を観察し、担任保育士との話し合いを行う試みを平成15年度より開始した(矢野・青木,2004)。研修会を通じて依頼のあった4園を夏(8〜9月)と春(2〜3月)に訪問し、観察とインタビューを行った。アンケートへ回答された子どもを対象とし、集合場面、自由遊び場面での行動を中心に観察を行い、ビデオと筆記により記録した。観察後、担任保育士とカンファレンスを行い、具体的なエピソードやこれまでの変化、保育での関わりで配慮していることなどを尋ねた。 平成15年度の観察では、次の2点が考察された(矢野・青木,2004)。(1)観察を依頼された事例について、子ども自身の特徴よりも家庭環境に関して気になっている傾向が共通していたことから、家庭への介入に迷っている事例に対して第三者の視点が求められる傾向がある。(2)子どもの表情や対人関係のとり方などがアンケートの結果に反映され、保育士が子どもの些細な成長に敏感であろうとする姿勢が観察とインタビューから共有された。 平成16年度の観察では、次の3点が考察された(矢野・青木,2005.印刷中)。(1)2年間を経て、子ども達の自然な発達と共に保育が変化する中で、周囲の成長と対象児の気になる様子のギャップが大きくなり、クラス全体の運営などにおいて保育士が苦慮していることがうかがわれた。(2)観察時に録画するビデオは、保育者の主観的な体験を客観的に整理する媒体として有用である一方で、保育者自身の保育力や保育観が話題として引き出されることも多く、保育者の潜在的な感情に訴えることを考慮する必要性が推察された。(3)今後の課題として、保育において難しさを感じたときの保育者の情緒や、必要とされる援助について更なる考察を深める必要性が考えられた。
|