本年度の目標は正則シンプレクティック多様体が持つファイバー構造の底空間を詳しく調べることであった。具体的な研究手段として、編曲ホッジ構造の退化を調べてみたが、残念ながらこの方向では目標を達成するのが困難であることが判った。そこで、研究方法を変更し、以下に述べる二つのアプローチを行い、副産物も含め以下の結果を得た。 1.代数幾何では非特異な多様体だけではなく、特異点を許した多様体まで扱う対象を拡げて考えることで、問題の解決に新しい知見を得ることがしばしばある。自分が持っている予想、底空間は射影空間に同形であろう、はある種の条件を満たす特異シンプレクティック多様体に対しても成立するであろう、という作業仮説をたて、少なくともホッジ数は射影空間と同じであることが得られた。この結果は現在修正中の論文に加筆の上発表予定である。 2.予想を逆の方向から見た問題、射影空間上のファイバー構造を持つ多様体がシンプレクティック構造を持つのはどのような場合か、という視点から研究を試み、必要十分条件を一つ示した。正則シンプレクティック多様体の例は極めて少なく、またそれら全てが何らかの形でアーベル曲面もしくはK3曲面と関係しているが、得られた条件を用いて新しい例が構成できるものと期待している。 3.シンプレクティック多様体のファイバー構造で一般のファイバーはリュービルの定理からトーラスとなるが、それがどのように退化するか、は大変複雑であって、捕らえることは難しい。が、もっとも穏やかな退化については完全な分類が出来、またその構成法、代数幾何的な種々の不変量に関する公式を得ることが出来た。これについては現在論文を準備中である。
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