研究概要 |
上半平面上の帯球関数はラプラシアンから決まる2階の常微分方程式を満たす.同じ微分方程式を満たすが,単位元まわりで確定特異点を持ち,無限遠点である増大度条件をみたす球関数を第2種球関数と言う.この関数は保型形式の整数論にとって大変重要である.例えば,第2種球関数を離散群上平均化して得られるポアンカレ級数を積分核とする積分作用素はラプラシアンのレゾルベント作用素となり,その跡を計算したものがレゾルベント跡公式である.レゾルベント跡公式はセルバーグ跡公式と本質的に同じ情報を含み,これを用いて,セルバーグゼータ関数の解析接続や関数等式が証明されるなど,保型形式の整数論を研究する際の重要な道具の一つである.今回,第2種球関数にシフト作用素を複数回作用させて得られる関数に対して,レゾルベント型の跡公式を証明し,それを用いて,保型形式の周期を係数とするディリクレ級数の解析接続と関数等式を証明した.具体的には,(i)第2種球関数にシフト作用素をk回作用させた関数の超幾何関数による明示公式.(ii)上で得られた関数と重さ4kのカスプ形式との内積タイプのレゾルベント型跡公式.(iii)上で得られたレゾルベント跡公式の幾何学的辺の高次セルバーグゼータ関数(次数1から4kまで)による表示式.(iv)上で得られた関数を複数回差分して得られる重さ4kの保型形式の周期を係数とするディリクレ級数の解析接続,関数等式,極の決定.等を証明した.今回得られたディリクレ級数は,k=1の場合はセルバーグゼータ関数のタイヒミュラー空間における第一変分と一致するので,幾何学的にも整数論的にも大変興味深い対象といえる.
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