15年度には、14年度中に定式化した圏論や宇宙によるアプローチをDiophantus幾何に応用する上で必要な「数学的インフラの整備」を目標とした研究を行なった。圏論や宇宙を中心とした新しいアプローチ「宇宙際幾何(inter-universal geometry)」の導入により、従来のスキーム論の幾何と本質的に異なる、新しい数論幾何が可能になるが、この新しい数論幾何を有効に使うためには、数体や数体上の代数曲線という数論幾何の本来の「主人公たち」を、宇宙際幾何の中でどのように扱うべきか、よく検証し、それらの対象について基本的な定理や構成の枠組を確立する必要がある。具体的には、宇宙際幾何では、「圏(category)」がもっとも基本的な幾何的対象になるので、数体や数体上の代数曲線のような古典的な対象たちを、とのような圏で表現すれば所望の性質を実現できるか、というのが重要な課題になる。このような圏の構成と基本的な性質の確立について、15年度中に大きな進展があった。なお、このような具体化の動きによって次のようなことが分かった: (1)およそ10年前から知られている「遠アーベル幾何」の主要な定理が、上述の「圏の幾何」の中でとのような位置を占め、また何の役に立つか、以前と比べて非常に明示的に記述できるようになった。特に、「遠アーベル幾何」には見られないが、数体の「圏の幾何」に見られる「Frobenius射」を、以前から知られている遠アーベル幾何の定理と組み合わせることによって様々な興味深い数論幾何が生じることに気付いた。 (2)以前から検討していた「Hodge-Arakelov理論を、宇宙際幾何を介して、Diophantus幾何に応用する」という方針が正しくないとの結論に達した。その理由は、Hodge-Arakelov理論が本質的にスキーム論の枠内に留まっている理論であることにあり、正しいアプローチは、以前研究していたスキーム論的なHodge-Arakelov理論を直接応用することではなく、むしろ圏の幾何による、新しい「Hodge-Arakelov理論の宇宙際幾何版」を開発することにあるとの認識を持つに至った。
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