遠アーベル幾何、それから「IU(=「Inter-universal」)幾何」によるDiophantus幾何への新しいアプローチ、という二つの領域において次のような進歩があった: (1)双曲的曲線に付随する配置空間の幾何的基本群に対して、(多くの場合)自然な射影たちが群論的であることを証明した(玉川安騎男氏との共同研究)。 (2)p進局所体上の双曲的曲線に対する「Section予想」へのアプローチを、(修士課程の学生の)星祐一郎氏と議論し、大きく伸展させた。また、昨年度開発した「カスプ化」という手法を用いて、星氏との共同研究を経て、有限体上の種数ゼロの双曲的曲線に対する「pro-l Grothendieck予想」について新たな知見を得られた。 (3)Diophantus幾何への新しい、非スキーム論的アプローチの基礎となる「IU幾何」の厳密な定式化に向けて大きく進歩した。特に、基本的な用語の定義や、Diophantus幾何への応用の際に必要となる「一種の極限」と「IU的テンソル積」の構成に成功した。 (4)Diophantus幾何への応用の際、IU幾何という「一般論」の適用の対象となる新しい種類の圏「Frobenioid」の理論を展開し、論文にまとめた。この新しい種類の圏は、古典的なガロア圏と、log構造の理論に登場する「モノイド」を組み合わせたような数学的対象であり、例えば、Frobenioidを用いて数体を表現すると、(スキーム論の枠組みではあり得ない)正標数のFrobenius射のような射が、そのFrobenioidに対して定義可能となる。またFrobenioidの理論と遠アーベル幾何の両方の側面をもつ「エタール・テータ関数」の理論を展開し、そのエタール・テータ関数による「円分的剛性」という現象を主テーマに、論文にまとめている最中である。
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