今年度はまず多重値モース理論において中心的役割をはたすNovikovの不等式に注目し、特に結び目に対するNovikovの不等式の精密化を行った。 1960年代から、fibered knotのアレキサンダー多項式の最高次係数は1ということが知られていた。これはNovikovの不等式の特別な場合である。まず、このfibered knotのアレキサンダー多項式の最高次係数は1という定理を拡張し、fibered knotのひねりアレキサンダー多項式も同じ性質を持つことを証明し論文にした。そして、それをより一般的な定理にするために、「ひねりNovikovホモロジー」という概念を導入し、結び目に対するNovikovの不等式の精密化に成功した。新しく得た不等式がどの程度有効かを調査するために数式処理システムMathematicaを購入し数値計算を行った。これらの研究はフランス・ナント大学およびドイツ・マックスプランク研究所に出張し、セミナーやレビューを受けることで完成させることが出来た。今現在、新しく得た不等式を利用することで、交点数の少ない結び目・絡み目に対するMorse-Novikov数の決定を試みている。 一方で、三次元多様体の多重値モース写像を応用することで、よい性質を持ったFloerホモロジーが得られるのではないかと期待している。このことを理論的に証明することをめあてにいくつかの実験的計算を行った。そして、この分野の専門家の多い北海道大学に出向き、この計算に対するレビューを受けた。この結果に基づき、今現在、新しいホモロジーの構成を試みている。
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